ブラジルで事業を行う企業からよくいただくご質問の一つに、「従業員の給与は毎年必ず引き上げなければならないのか」、また、**「インフレ率に応じて給与を引き上げる義務があるのか」**というものがあります。
これらを理解するためには、ブラジルの労務における Data-base(基準日)、労働協約(Convenção Coletiva de Trabalho – CCT)、労働協定(Acordo Coletivo de Trabalho – ACT)、そして **団体労働争議(Dissídio Coletivo)**について理解することが重要です。
Data-base(基準日)とは?
Data-baseとは、特定の職種・業種に適用される労働条件について交渉する際の、年次の基準となる時期です。
法律第10,192/2001号第10条では、給与およびその他の労働条件は、それぞれの年次Data-baseにおいて、自由な団体交渉を通じて決定・見直しされると定められています。
この時期には、例えば次のような事項について交渉が行われます。
- 給与改定
- 職種別最低賃金の改定
- 食事手当(Vale-Refeição)
- 食料手当(Vale-Alimentação)
- 各種追加手当
- 福利厚生
- その他の労働条件
毎年の給与引き上げは義務なのでしょうか?
年に一度Data-baseがあるからといって、すべての従業員に対して毎年一定の割合で自動的に昇給させることが法律上一般的に義務付けられているわけではありません。
また、会社がIPCAやINPCなどのインフレ指数をそのまま給与に適用しなければならないという一般的なルールもありません。
さらに、法律第10,192/2001号では、物価指数に連動した給与の自動的な調整・改定を定める条項を設けることを禁止しています。
実際に適用される給与改定率や条件は、団体交渉の結果、およびその職種や会社に適用される労働協約・労働協定などの内容によって決まります。
したがって、各ケースについて、適用される労働協約(CCT)、労働協定(ACT)、または該当する場合には団体労働争議(Dissídio Coletivo)に基づく決定を確認する必要があります。
労働協約(CCT)と労働協定(ACT)の違い
名称は似ていますが、同じものではありません。
**労働協約(Convenção Coletiva de Trabalho – CCT)**は、通常、労働者側の労働組合と使用者側の組合との間で締結されます。
そして、団体交渉の対象となる職種・業種に適用される労働条件を定めます。
一方、**労働協定(Acordo Coletivo de Trabalho – ACT)**は、労働者側の労働組合と特定の1社または複数の会社との間で締結されます。
そのため、ACTはCCTよりも適用範囲が限定され、その協定に参加した会社および対象となる従業員に適用されます。
ブラジルの統合労働法(CLT)第611条でも、この違いが規定されています。
Dissídio Coletivo(団体労働争議)とは?
ブラジルでは日常的に、「今年のDissídioは何%だった?」というような表現を耳にすることがあります。
このように「Dissídio」という言葉が年次給与改定と同じ意味で使われることがありますが、法律上は同じものではありません。
まずは団体交渉による解決が試みられます。
労働者側と使用者側が合意に達した場合、その結果は**労働協約(CCT)または労働協定(ACT)**として正式に締結されることがあります。
一方、交渉で合意に至らなかった場合には、法令上の要件に従ってDissídio Coletivoに関する訴訟が提起される場合があります。
この場合、団体労働紛争がブラジルの**労働裁判所(Justiça do Trabalho)**に持ち込まれ、その職種・業種の労働条件について判断が示される場合があります。
簡単にまとめると、
労働協約(CCT):
労働者側の労働組合 + 使用者側の組合
労働協定(ACT):
労働者側の労働組合 + 1社または複数の会社
団体労働争議(Dissídio Coletivo):
団体交渉で解決に至らなかった場合に、法令上の要件に従って労働裁判所に持ち込まれる団体労働紛争
という違いがあります。
団体交渉がData-baseより後に終了した場合
実務では、Data-baseを過ぎても団体交渉が続いているケースがあります。
例えば、ある職種のData-baseが5月1日であるものの、労働協約が締結・公表されたのが7月だったとします。
この場合、労働協約・労働協定などに定められた内容、特に適用期間、給与改定の適用時期、その他の個別条件を確認する必要があります。
交渉で決定した給与改定がData-baseまで遡って適用される場合、会社はその時点から給与を再計算し、該当する差額を遡及して支払う必要が生じる可能性があります。
例えば、
改定前の給与:R$ 3,000
給与改定率:5%
改定後の給与:R$ 3,150
1か月あたりの差額:R$ 150
とします。
労働協約などによって給与改定が5月から適用されることになったものの、5月と6月の給与計算がすでに旧給与で処理されていた場合、その期間について給与差額が発生する可能性があります。
また、給与額の変更によって、報酬を基準として計算されるその他の項目にも影響が生じる場合があります。
そのため、給与改定率だけではなく、適用開始日やその他のルールについても確認することが非常に重要です。
交渉期間中に退職した従業員は?
Data-baseの時点では在籍していたものの、団体交渉が続いている間に退職した従業員がいる場合にも注意が必要です。
その後、Data-baseまで遡って給与改定を適用する労働協約などが公表され、その元従業員も対象となる場合、会社は退職日までに支払うべき金額について再計算が必要かどうかを確認する必要があります。
また、必要に応じて、新しい給与額によって影響を受ける退職時の精算金についても差額を追加で支払う必要があります。
そのため、労働協約などが公表された際には、すでに退職した従業員にもその内容が適用されるかどうかを確認することが重要です。
Data-base直前の解雇にも注意
会社が確認すべき重要なポイントがもう一つあります。
各職種・業種の給与改定とは別に、Data-baseの直前30日以内に会社都合による正当な理由のない解雇(dispensa sem justa causa)が行われた場合、法律第7,238/1984号に定められた条件に該当すると、給与1か月分に相当する追加補償金が必要となる場合があります。
これは給与改定とは別のルールですが、各職種・業種に適用されるData-baseを正確に把握することが重要である理由の一つです。
企業が毎年確認すべきポイント
会社は毎年、以下の事項を継続的に確認することが重要です。
- 各職種・業種のData-base
- 労使間の団体交渉の状況
- 従業員に適用される労働協約・労働協定などの公表
これらを適切に管理することで、給与差額の累積、給与計算上のミス、そして将来的な労務上のリスクを防ぐことにつながります。
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